LaTeXを使った「次第」作成 その3
声明スタイルファイルの解説
描画命令
この声明システムは描画命令とその中で機能する音符命令、移動命令でできている。
描画命令は基本的には
\hakase : 音譜を描画する
\karifu : 文字列の横に音譜を出力する
の二つである。使用法は
\hakase{ 音符命令 }
\karifu( 音符右移動 , 全体上移動 )[ tbc ]{ 文字列 }{ 音符命令 }
\karifu*[ 字間変化 ]( 左右移動 , 上下移動 ){ 文字列 }{ 音符命令 }
(),[]は省略可能。省略時の動作はマニュアル参照。
\karifu は文字間の規定値が音符によらず決められている。
\karifu* は文字列、音符どちらか長い方に合わせて文字間を調整するよう設定されている。
\karifu は細かい位置調整が可能で用紙面積の節約に適するが用紙に余裕がある場合などには \karifu* が適している。
音階と基本音符
基本的な音程と命令を紹介すると
音階表の角度は水平右方向を起点に左回りを正に取った度数である。刻みが45度でないのは見た目を原本に近づけるためとスペースの節約のためである。
各音階を表す基本音符は音階の角度の方向に引いた直線である。音符を馴染みある漢字名でも指定できるよう別名も付けた。
音符命令を連続して書くと音符は繋がって表示されるように作ってある。
音の装飾を指定する音符
声明は声の出し方により様々な表現があるがそういう装飾を表す音符を以下に示す。
音符の作図命令は
\音符命令{ 音階 }
の形で使用する。音階とは表1に示す音階命令のことである。
以下使用可能な命令を表で示す。
この表に載ってない音符命令や移動命令についてはマニュアルを参照。
その他の音符
上記以外でよく使う音符に「戻り」「息継ぎ」「詰まる音」があるので紹介しよう。
文字出力
最後に声明譜の中に書き込む文字列命令について説明しよう。
譜だけでは表現しきれない発声などを文字で書き入れる場合がある。
この命令は
\moji( 相対x座標 , 相対y座標 )[ 方位 ]{ 文字列 }
である。
この相対座標は特殊である。文字列命令が記述される直前の音符の音階方向をx軸正方向、方位が示す方向をy軸正方向とする。現在の描画位置から変移 (x,y) だけ移動した位置で指定した方向に文字を出力する。y軸方向の描画開始位置はあらかじめずらしてあるので結果を見て微調整する必要がある。
方位 は誌面上方を北とし、8等分した方位をアルファベットまたは数字で指定する。
この他にもいくつか描画命令があるがマニュアルを参照せよ。
試し書き
実際に試してみよう。
新しいプロジェクトを作ってもいいし前回のプロジェクトを流用してもよろしい。
声明仮譜を入力するには hakase.sty を読み込む必要があるのでまずそれを用意しよう。
githubのリンクを開いて取り敢えず Download Zip で一式ダウンロードしておこう。
ダウンロードしたファイルを解凍しその中の hakase.sty を main.tex の欄にドラッグ&ドロップしてアップロードしよう。
ダウンロードファイルには hakase.sty のマニュアルと土砂加持、大般若の式衆用のサンプルのソースとPDFも含まれているので詳細はそちらを参照。
main.tex で hakase.sty を使うにはプリアンブル(\documentclass と \begin{document} の間)で \usepackage する。
この時 graphicx も同時に指定する。
簡単な使用例を見てみよう。
行末に 「%」を付けてあるのは改行がスペースに変換されないようにするためである。
先頭が大文字になった \Karifu は複数の仮譜をまとめて入力できるようになっている。
文字と譜それぞれをコンマで区切って対応付けます。
最後の「自下」譜は「ユリカケ切り」+「イロ」+「角」で出来ているがまとめて \jige という命令にしている。
もう少し詳細な使用法は先程ダウンロードした hakase_doc.pdf を見てもらおう。
実践的例題
師匠、次第の作り方をもう少し教えてください。
では、これを見てもらおう。
これは南山進流常用声明集からコピーした散華の仮譜だが、目的はを使ってなるべくこれに近い見た目の出力を得たいということだ。
装飾音符としては「アタル」「ユリソリ」「ユリカケ切り」「ソリ」「律のユリ」「イロ戻り」「力のソリ」「呂のユリ」「ユルグ」「切り」「詰まる音」などが見える。
どうです?出来そうですか?
やってみます。
先ず、新しいプロジェクトを作って hakase.sty をアップロードします。
ファイルをドラッグ&ドロップするとポップアップが出るので「アップロード」をクリックするだけでアップ出来るので簡単ですね。
左側の欄にファイル名が表示されました。
細かい注釈文字などは後回しにして、まず、文字と譜を打ち込んでいきます。
大体いけると思いますけど「場」の譜の繋がってない部分はどうやればいいのですか?
こういう時は移動命令 \moveTo を使う。描画最終位置を原点として次の描画位置の相対座標で指定する。
座標の数値は各音の音符の長さを “1” と見て目分量で決めるとよい。この場合は、右に 1、 上に 0.5 と見ると
\moveTo(1,0.5)
と書ける。
では段落の最初に字下げするようになっているので、字下げしたくないなら \noindent を入れとくといいよ。
\karifu はアステリスク(*)付きを使って入力できました。
\RequirePackage{plautopatch}
\documentclass[dvipdfmx]{utarticle}
\usepackage{graphicx,hakase}
\begin{document}
\noindent
\Karifu*{ん,願}{\cii,\cii}%
\karifu*{我}{\ataru{\c}\yurisori{\c}\modori\woo\woo\modori\woo}%
\karifu*{在}{\woo\woo\modori\woo}%
\karifu*{道}{\chikara{\w}\yurikake{\c}\yurisori{\c}\modori\woo}%
\karifu*{場}{\sori{\w}\yuriR{\k}\yuriR{\k}\iromodori\sori{\w}\kak\moveTo(1,0.5)\yuriR{\k}\yuriR{\k}\sho\chikara{\q}\modori\yurugu{\s}}\\
\Karifu*{香,華,供}{\sho,\kak\modori\cii\kak\modori\kak,\kak\modori\cii}%
\karifu*{養}{\yurikake{\c}\yurisori{\c}\modori\woo}%
\karifu*{佛}{\yuriL{\c}\woo\yuriL{\c}\cii\tsu}%
\end{document}
息継ぎをいれてみましう。
息継ぎは岩原諦信師の昭和改版進流魚山蠆介集に合わせて「切」の文字ではなくて黒い三角形にしています。
譜の状態によって音の方向に対する配置を左右に変えることができる。
例えば、右側なら\kiri、左側なら\kili と指定する。
この右左は直前の譜の方向に対する相対的な向きであることに注意してください。
例えば「角」に続いて何か書くときは「角」の譜は紙面に対して左向きであるので左向きに対して右側は「角」の譜の上側となります。
元の譜には「切」が7カ所あります。
\RequirePackage{plautopatch}
\documentclass[dvipdfmx]{utarticle}
\usepackage{graphicx,hakase}
\begin{document}
\noindent
\Karifu*{ん,願}{\cii,\cii}%
\karifu*{我}{\ataru{\c}\kili\yurisori{\c}\modori\woo\kili\woo\modori\woo}%
\karifu*{在}{\woo\kiri\woo\modori\woo}%
\karifu*{道}{\chikara{\w}\yurikake{\c}\kili\yurisori{\c}\modori\woo}%
\karifu*{場}{\sori{\w}\yuriR{\k}\yuriR{\k}\iromodori\sori{\w}\kak\kili\moveTo(1,0.5)\yuriR{\k}\yuriR{\k}\sho\kiri\chikara{\q}\modori\yurugu{\s}}\\
\Karifu*{香,華,供}{\sho,\kak\modori\cii\kak\modori\kak,\kak\modori\cii}%
\karifu*{養}{\yurikake{\c}\kili\yurisori{\c}\modori\woo}%
\karifu*{佛}{\yuriL{\c}\woo\yuriL{\c}\cii\tsu}%
\end{document}
私の感覚で黒三角の向きを仮譜元図から変えました。
自主性があってよろしい。
次に文字の入力に進もう。
長短は表2の基本音符にのみ使われるので描画位置は方位だけで指定できるようにしてある。
例えば「徴」の譜の長短は \cii の後に右上なら \長[ne] 、左下なら \長[sw]などと書く。
その他の文字は
\moji(-0.3,0)[e]{ア}
のように位置、方位、文字を指定する。
長が5ヶ所、短が1ヶ所、あと、読みが8ヶ所ですね。
\RequirePackage{plautopatch}
\documentclass[dvipdfmx]{utarticle}
\usepackage{graphicx,hakase}
\begin{document}
\noindent
\Karifu*{ん,願}{\cii,\cii\moji[nw]{ン}}%
\karifu*{我}{\ataru{\c}\kili\yurisori{\c}\modori\woo\長[e]\kili\woo\矢[w]\modori\woo\長[e]}%
\karifu*{在}{\woo\長[w]\kiri\woo\modori\woo\長[e]\moji[n]{イ}%
\karifu*{道}{\chikara{\w}\yurikake{\c}\moji(-1,0.2)[sw]{ウ}\kili\yurisori{\c}\modori\woo}%
\karifu*{場}{\sori{\w}\yuriR{\k}\moji[s]{ウ}\yuriR{\k}\iromodori\sori{\w}\sori(-0.3,0)[e]{ソ}\kak\kili\moveTo(1,0.5)\yuriR{\k}\yuriR{\k}\sho\kiri\chikara{\q}\modori\yurugu{\s}}\\
\Karifu*{香,華,供}{\sho,\kak\modori\cii\kak\modori\kak\moji[w]{イ},\kak\modori\cii}%
\karifu*{養}{\yurikake{\c}\moji(-1,0.2)[sw]{ウ}\kili\yurisori{\c}\modori\woo\長[nw]}%
\karifu*{佛}{\yuriL{\c}\woo\yuriL{\c}\cii\tsu\moji(0,0.2)[ne]{入}}%
\end{document}
声明の譜の入力は以上で終わりです。譜の入力についてはだいたい要領は掴めたと思う。
元画像には白抜き文字など声明譜以外の要素が絡んで来るのでそれらについては次回以降に回すことにしよう。
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